「Steidl Book Award Japan 2016」滞在制作レポート1

 

2016年のTOKYO ART BOOK FAIRで開催したダミーブックアワード「Steidl Book Award Japan」。受賞作品の制作がいよいよスタートしました。今回の制作で8人の受賞者は2グループに分かれて1週間ずつSteidlに滞在し、期間中にゲルハルトをはじめとするSteidlチームとともに制作を行います。

 

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初日は打ち合わせの前にSteidl社の見学からスタート、世界中で同時進行しているプロジェクトをマネージメントしているナディーンが社内を案内してくれました。

 

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彼女が最初に説明してくれたのは建物のコンセプトについて。1階には「印刷所」、2階は画像処理をおこなう「イメージデパートメント」、3階には「デザインルーム」、4階には「ライブラリー」が設けられています。上階から下階に降りていくに従って、アイデアが徐々に形になっていき、一冊の本が仕上がっていく工程を象徴するレイアウトになっています。

 
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ツアーは「ライブラリー」からがスタートしました。ゲルハルトと最初の打ち合わせを行うのがこの部屋で、「天から降りてくるアイデアを掴まえる」コンセプトワークをおこなうため、最上階にライブラリーを設けているとのこと。壁一面に据えられた書棚にはSteidlが出版してきた本のうち近年の刊行物を中心に約1200冊が収蔵され、自由に閲覧することができます。

数多くのプロジェクトが進行しているSteidlですが、その全てをゲルハルトが率いているため、打ち合わせができるタイミングは流動的、事前に設定するのが難しい状況です。そのため作家はゲルハルトとの打ち合わせの機会を待ちながらこの部屋で過ごしますが、待ち時間を無駄にしないために設けられているのがこのライブラリーで、作家はSteidlが出版してきたアートブックを見ている間に想像していなかった事例に出会うことで、コンセプトを具体的なアイデアへと結びつけていきます。

 

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ライブラリーの下階には「デザインルーム」が設けられ、作家とゲルハルトで決めたコンセプトを基に担当デザイナーが作業を行います。すぐ隣にはゲルハルトのオフィスがありますが、扉がないので誰もが必要な時にいつでもアクセスでき、確認や質問がいつでも可能な環境が整っています。

 

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彼のオフィスで特徴的なのは高く積まれた書類整理用のトレイ。進行中のプロジェクトを管理するためのもので、資料が案件ごとに1つのトレイにまとめられ、出版完了後に1冊のファイルに綴じて保管されます。このファイルには制作に必要な情報が全て記録されているので、一度出版した本はいつでも全く同じ仕様での制作が可能、同様の造本や印刷の仕様を採用する際の参考資料としても活用されます。出版してきた全てのアートブックに関するデータが蓄積されているこのアーカイブは、Steidlの築いてきた財産のひとつと言えるでしょう。

 

デザインルームの下には、印刷に適したデータを作るための「イメージデパートメント」が据えられています。一部屋には高精細出力機が設置され、ここで出力した見本を使って最終の確認を行います。隣の部屋には画像処理専門のスタッフが常駐し、データのフォーマットを整え、印刷に適した色味への調整作業が行われています。

白黒写真を印刷する際にも黒だけで刷るのではなく、グレーなど複数色を掛け合わせて印刷されていますが、一般的には2色から3色で印刷するのに対して、Steidlでは4色から5色が使われます。1枚のイメージをどのように分解するかによって仕上がりが全く異なり、掛け合わせる色数が増えるほど難易度が高くなりますが、全てを社内で行うことができる環境と、実践によって培われた経験が困難な作業を可能にしており、この技術力がSteidlの高品質なアートブックを支えています。

 

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デザインと画像データが整い、工程はいよいよ最終段階の「印刷」へと進みます。このフロアでは2つの作業が行われています。ひとつがインクを紙に定着させるアルミ製のプレート「刷版」を作る作業で、印刷色ごとに一枚の刷版を作り、すぐ隣にある印刷所へと持ち込まれます。年間200冊以上のアートブックを出版しているSteidl社ですが印刷機は2台のみ。1台は1色刷りの機械で、主に表紙の印刷などに用いられ、もう1台の6色刷りの印刷機で本文を印刷しています。印刷機は24時間止まることなく稼動し、全ての工程をゲルハルトがチェックしながら作業が進行していきます。

 

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そして刷り上がった本文と表紙は製本所に輸送し、最後の仕上げを経てようやく一冊の本が完成、世界中の書店へと流通していきます。

 

社内は常に整理整頓されて全工程が滞らないよう管理され、少数精鋭の優れたスタッフが各工程を支えています。コンセプトワークからデザイン、印刷、流通まで全てを社内で行う独自のスタイルによってSteidlの高品質なアートブックを作り出す環境が築かれていました。

 

午後からは、いよいよ受賞者とゲルハルトとのミーティングがスタートします。