ドイツにおける現代のアートブックシーンを紐解く展示「Doitsu Art Buchmarkt」には、5名のキュレーターたちがセレクトしたアートブックやZINEが並びます。ここではキュレーターたちに、それぞれの活動やセレクションについて話を聞いてみます。続いて、ミシェル・フィリップスとヨハネス・コンラッドによって設立されたベルリンを拠点とするクリエイティブエージェンシーStudio Yukikoをご紹介します。ローカルとの交流を通してその土地の歴史や文化を紐解く雑誌「Flaneur」の共同創刊や、文化や商業施設のブランディング、またブランドとのコラボレーションまで様々なプロジェクトを手がけています。
ー 今回の展示のためにドイツ出身またはドイツで活動する作家のアートブックを選んでいただきましたが、セレクトのポイントを教えてください。
私たちはインディー雑誌のデザインを長年手がけてきたスタジオなので、ZINEやインディペンデントな出版シーンを盛り上げているイラストレーター、アーティスト、コレクティブ、ギャラリーに大きな愛情を感じています。そこで今回の展示のために、ベルリンを拠点にする素晴らしいリソグラフの印刷所であり出版社、そしてプロジェクトスペースであり、また素晴らしい集団的、政治的プロジェクトを行っているColoramaから多くの本をセレクトしました。 彼らは私たちのお気に入りのイラストレーターたちとも仕事をしているんですよ。また、ハンブルグを拠点とするRFI Galleryの1500タイトルを超えるZINEライブラリーから、ドイツ出身またはドイツ在住のアーティストの作品集26点を持ってきました。 私たち自身の仕事も洗練されていないスタイルに傾倒してきましたし、ZINEコミュニティは、儚いアイデア、考え、そして物語を、美しく反抗的な方法で表現する最前線であり続けてきました。その他にも、私たちのお気に入りのローカルアーティストの本や、私たちがデザインで関わった本を持ってきました。折衷的なミックスですが、折衷主義こそが私たちが愛するものであり、ドイツのデザインとイラストレーションシーンの素敵な部分だと思っています。
ー 雑誌や本のデザインの他にも、展覧会のビジュアルアイデンティティやブランドの広告キャンペーンなど様々なプロジェクトを手がけていらっしゃいます。あなたにとってアートブックとはどのような存在でしょうか?
アートブックは時代を超越したものなので、良いアートブックは価値を失わないと思っています。私たちは、シーズンやイベントのキャンペーン、一定期間のみ使われるヴィジュアルアイデンティティ、1日で消えてしまうソーシャルメディア用の投稿素材など、つかの間のプロジェクトに多くの時間を費やしてしまいます。しかしアートブックは、誰もが所有し、永久に保存できるプロジェクトや作品群なのです。書籍のために良い予算を見つけるのはますます難しくなっていますし、制作には多くの時間がかかるので、私たちがたくさんの本を作ることができるのは光栄なことだと思っています。
ー ビジュアルを通して物語やコンセプトを伝えることが、Studio Yukikoによるデザインの特徴のひとつです。雑誌「Flaneur」にもこのストーリーテリングのアプローチを取り入れています。Studio Yukikoのデザインにおいて、ストーリーテリングが重要になっていった背景を教えてください。
雑誌『Flaneur』の創刊は、私たちの仕事のやり方を大きく変えたと思っています。『Flaneur』は、私たちが初めて刊行した雑誌であり、私たちにとって大きな試みでした。この雑誌のおかげで、デザイン分野以外の人たちや、世界中の様々な都市と密接に仕事をすることができたのです。また、有意義で実践的な方法でのアーティストとのコラボレーションについて教えてくれたとも思っています。それ以来、私たちはデザインが物語に何を加えることができるのか、またアートブックが展覧会の単なる記録ではなく、展覧会の延長となりうるのかを探求してきました。同様に、私たちはアイデンティティや企業の仕事においても、常に物語的なアプローチを試みています。結局のところ、アイデンティティとは、同じ目標に向かって働く人々のグループの表現だと思っています。
ー ベルリンには多くのアーティストが集まり、そのことがこの街をユニークなものにしてきたと思います。活動の拠点にされているベルリンとは、Studio Yukikoさんにとってどのような街でしょうか?
ベルリンは汚くてごちゃごちゃしているところですが、私たちはそれをどこか美しく感じています。この街は緊張に満ちていて、それゆえに探検が可能だったり、インスピレーションを得るものがたくさんあると思っています。私たちは幸運にも長い間この街にいるので、ベルリンが進化し、多くの変化を遂げるのを見てきました。スタジオとしての私たちも同じですし、他の場所では自分達の活動を同じようにはできなかった思います。
ー 日本のオーディエンスに向けて一言お願いします。
ベルリンに住むハーフの日本人として、多くのインスピレーションを得た日本に来られてとても光栄です。自分のホームであるベルリンから、私がインスピレーションを受けたものを持っていきます。