「Steidl Book Award Japan 2016」滞在制作レポート5

今日は本の最終的な仕様を決める段階に入りました。本文と同時進行していた表紙のデザインも決まり、素材や見返し、加工を確定させていきます。

 

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鈴木さんは裁ち落としの図版が全編を通じて続くデザインが特徴的な作品集になったので、表紙にも裁ち落としで写真が大きく使われますが、タイトルと作家名をどのように入れるのかが論点になりました。

 

 鈴木さんは文字を表紙の写真に重ねず、裏表紙に入れるプランを第一希望としていましたが、ゲルハルトから「表紙の情報というのは極めて重要で、作家名が表紙で分かることはアドバンテージになる、初の写真集となればさらにその効果は大きい。」とアドバイスがありました。鈴木さんにとって写真と文字が重なってしまうことで可読性が低くなってしまう懸念がありましたが、文字を箔押し加工にすることで質感に差をつけ、文字がきちんと読めるような仕様にすることで、この問題点を解決することになりました。

 

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表紙の素材や見返しなど、ディテールは本文と表紙のデザインに沿うように黒に統一、カバーはソリッドな印象を持たせるためにハードカバーにしつつも、柔軟性があって曲がる薄い素材を用いることで、本文をめくる際に指でページをフリップしやすく、疾走感を演出する仕様になります。

 

平野さんの場合、製本は作品の被写体になっている工事現場を連想させるリング綴じを採用することになりました。ただ、リング綴じは本文がしっかり固定されないのでルーズな印象になってしまいます。それを解決するためにスリップケースに本体を収めるプランが提案されました。

 

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各仕様が決定し、最後にテスト印刷の仕上がりをチェック。平野さんは2種類のシリーズそれぞれに数パターン試したテストプリントを見て、組み合わせを決定します。鈴木さんもテストプリントを改めて確認、それぞれ印刷方法も決定したので、ここで全ての作業が完了しました。

 

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ここまでの制作に要したのはわずか5日間ですが、この短期間で制作が実現できたのは、常に的確な提案がされたのに加えて、判断を迷わないように作家を導いていく進行方法が大きく貢献しています。

最初の打ち合わせから制作が完了するまでに段階を踏みながら進行していきますが、打ち合わせの場には常に必要な素材が全て揃った状態で行われ、議題も明確にされています。話し合いが決断しなくても良い内容へと飛躍しないように導きながら、作家が判断すべきポイントに集中して行われるので、一度の打ち合わせ時間は15分程度で全て明確になります。最終形が見えていない段階では造本や用紙など、本を構成する色々な要素について思いを巡らせてしまいがちですが、つねに要点を絞って各段階をクリアしていく明確な導線が、不要な議論や迷いを生じさせません。

 

この1週間で、受賞作品制作と並行して出版した本は写真集が8冊と読み物が3冊、それに加えて翌週からスタートする2件の展覧会デザインと展示物の制作が進行されていたとのこと。驚異的な仕事をこの短期間で、全てに細心の配慮が行き届いた状態で完成できるのは、この無駄のない進行によって成立していました。

 

本文用紙を本日中には発注し、届きしだい印刷が行われます。その刷り出しを作家へ郵送して承認後に製本、スムーズに制作が進めば9月中には完成し、10月中旬からは流通もスタートするスケジュールを予定しています。そして明日からは、第一グループと入れ替わって受賞者の第二グループが滞在し、4名の作品制作が新たにスタートします。

 

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