Steidl ゲルハルト氏のブックアワードに寄せてのコメント

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——Steidl Book Award Japanを創設したきっかけは?
『Robert Frank: Books and Films, 1947-2016』という展示の東京会場を探して、東京藝術大学やアートブックショップPOSTの方々と話をしているときに、アワードを始めることを思い立ったんです。この展示は、彼の創作の歩みを、なるだけ手を加えず、分かりやすいかたちで写真を学ぶ若者に示すもの。ロバート自身、若いときに自分の写真集のダミーブックを作っているのですが、これこそが、彼の創作のなかで写真集が大きな位置を占めるきっかけとなりました。だからこそ若い人々がロバートと同じように写真集を手作りし、写真メディアとしての本の可能性に気づく機会として、アワードを創設するのには意味があると思えたのです。

 

——日本のアート/アートブックをどのように見ていますか?
 日本のアートブックや写真集は非常に価値あるものです。美しく、素晴らしい作品集をわたしはいくつも知っていますし、まだまだ学ぶべきこともたくさん残されています(なんとも喜ばしいことですけれど)。いい物を教えてくれる友人たちもいますし。
 Steidl社でも、2001年に、貴重かつ象徴的な日本の写真集を集めた『The Japanese Box』を、カール・ラガーフェルドと出版し、今ではこの作品集自体が稀覯本となっています。それから日本の伝説的な写真雑誌『provoke』をまとめた全600ページの作品集も印刷し終えたばかりですし、1912年から1980年の日本の写真集について研究する初の洋書となる『The Japanese Photobook, 1912–1980』の出版準備も進んでいます。さらに日本の本や紙工は実に創造的で、たとえばこれもカール・ラガーフェルドと製作した最近のシャネルのカタログでは、日本の折りを採用しましたし、個人的に日本の手漉き和紙をラッピングペーパーに使うことも多いんです。前回の東京への旅では資生堂の創業者の息子である福原信三『巴里とセーヌ』(1922)の素晴らしい初版本を見つけ出したんですよ。

 

——よいアートブックに必要なものはなんですか?
 写真の技術、印刷や製本の質などなど、よい本をなす客観的な条件というものはあります。でも結局のところ、大切なのは主観的なこと。わたし自身は、アートブックを見るとき、そこに何か新鮮なかたちで示されたアートを見たいと思っています。大切なのはそこにあるアートと、本の細かな点の関係性でしょう。そのアートについて最適かつ最も美しい本で語ってくれるのか? 本の仕様やデザイン、紙、印刷技術や製本の素材をどうすれば本の内容をよりよく現すだろうか? と。

 

——応募者へメッセージを。
 他のアーティストには大いに刺激を受けるべきですが、真似をしてはいけません。自分だけの言葉を見つけ出し、自分自身であることを心がけてください。そして最後にとても大切なアドバイス……ロバート・フランクの言葉です。「常に目を開けていること」。

 

 

Brutus No.825号 (2016年6月1日発売)の取材に寄せて
インタビュー/翻訳:阿久根佐和子

 

※本アワードの応募対象をより開かれたものにするため、名称が[Steidl Japanese Photobook Award]から[Steidl Book Award Japan]へと変更になりました。Brutus誌面では、旧名称[Steidl Japanese Photobook Award]と記載されています。