「Nordic Art Book Store」キュレーターインタビュー Vol.3 マルメ・アーティスツ・ブック・バイエニアル(スウェーデン)

 

TABF2023には、北欧5カ国のアートブックシーンを牽引する5名のキーパーソンたちがセレクトしたアーティストブックやZINEが並ぶ4日間限りのブックストア「Nordic Art Book Store」がTABFに登場します。ここではキュレーターたちに、それぞれの活動やセレクション、自国のアーティストブックの特徴などについて話を聞いてみます。スウェーデンのキュレーションを担当してくれたのは、マルメという都市でアーティストブックのフェアを運営する「マルメ・アーティスツ・ブック・バイエニアル(MABB)」です。スウェーデンのアーティストブックの歴史やブックデザインなどについて話を聞いてみました。

 

―簡単な自己紹介をお願いします。

 

「マルメ・アーティスツ・ブック・バイエニアル(MABB)」は、2018年にスウェーデン国内で高まるアーティストブックに対する認知の受け皿として、作家や出版社が作品を販売する場としてスタートしました。それまで、スウェーデンにそのような場はありませんでした。2024年に、3度目の開催を迎えます。アーティストブックの歴史や文脈を広めるための多様なセミナープログラムも企画しているほか、美術機関や図書館にも参加してもらい、アーティストブックの文化についての議論を続けています。フェアには海外からの出展者も多く参加しており、スウェーデンの作家や出版社にとって、ヨーロッパや世界におけるアーティストブック文化についてのより広い議論の中に身を置くことができる機会となっています。

 

―2022年のMABBでは、図書館の重要性に触れていましたが、そのことについて詳しく教えてください。

 

昨年のフェアでは、アーティストブックという素晴らしい財産を保存し、可視化する図書館の役割に焦点を当てました。スェーデンの図書館における収集は少し特殊で、アーティストブックは「裂け目に落ちてゆく」傾向にあり、膨大なコレクションの中に埋もれてしまうことが多かったんです。最近では、ヨーテボリ大学図書館がプロジェクトを立ち上げ、この問題に取り組んでいます。

 

―Nordic Art Book Storeのセレクションのなかで、60年代に刊行されたアーティストブックが含まれているのはスウェーデンのみでした。スウェーデンには、アートブックの長い歴史があるのでしょうか?

 

スウェーデンだけの話かどうかはわかりません。例えば、デンマークにも60年代に活動していた先駆者たちは確かに存在しますよね。実は、スウェーデンのアーティストブック文化における先駆者であるC・O・フルテンは、デンマーク人アーティストのアスガー・ヨルンと制作の面で密接な繋がりを持っており、ヨルンの本を用いた作品に影響を受けたのではないかと私は考えています。スウェーデンにおいてアーティストブックの先駆けとなった制作者たちはまた、世界的な先駆者であったフルクサスとも緩やかなつながりを持っていました。彼らにとって、出版とはより広いオーディエンスが手に取ることができるアートを作るというごく自然な作品制作の一部でした。フルクサスに影響を受けたスウェーデンのアーティストたちは、アートをより民主的なものにするという大きな活動の一部としてごく自然に彼らの手法を取り入れ、出版を始めたのです。

 

Nordic Art Book Storeに集まったスウェーデンの本は、ブックデザインがユニークだと感じました。スウェーデンのアーティストたちはブックデザイナーと密に協働しているのでしょうか、それとも作家自身がデザインされるのでしょうか?

 

スウェーデンでは、アーティストブックの出版に金銭的に手が回るアーティストは多くなく、アーティストブックの出版に対して柔軟に対応する助成金もないので、デザイナーとの協働によってアーティストブックが作られるケースはほとんどないと思います。もちろん、例外も存在します。RojalやHundöratといったアーティストブックの出版社にはブックデザイナーが関わっていますが、多くのアーティストは、デザイナーではなく自身で本をデザインしています。

 

―「Nordic Art Book Store」のためにフィンランドのコンテンポラリーなアーティストブックやZINEをセレクトいただきました。自国の特徴、そのほかの北欧4カ国との相違点とは?

 

ひとまとめに語るのは難しいですが、スウェーデンにいまだ「フルクサスの亡霊」が生き続けていると感じます。多くのアーティストブックは、手が出しやすい価格帯、かつ簡潔なデザインで、作家性やアイディアに重きを置いています。例外はもちろんありますが。ここ数年は、テキストを主体とした作品がトレンドになっています。ペール・テルン、レイフ・ホルムストランド、ペーダー・アレクシス・オルセンなどの作品において特に顕著ですが、アーティストとライターのコラボレーションがよく見られるようになりました。ブックアート、製本の分野で修練を積んだ作家による小さなコミュニティも存在し、彼らの作品は非常に完成度が高いです。今回のセレクションでは、それが見えづらいかもしれませんね。それから、本を物質としてだけでなく、歴史と精神を運ぶ船として捉えて向き合う孤高の作家もわずかながら存在します。マルヤ・レーナ・シッランパーはその中でも傑出した作家です。

 

―日本のオーディエンスに向けて一言お願いします!

 

今回の企画を通して、スウェーデンのアーティストブック文化における現在の流行や共通点を見つけ出すこともでき、楽しくも示唆に富んだプロセスとなりました。ありがとうございました!来場者の皆さんも、スウェーデンのセレクションを楽しんでくれることを願っています。MABBにもぜひいらしてください。5月の24日から26日まで、マルメが最も過ごしやすく美しい姿を見せるはずの時期に開催します!

 

11月25日(土)17:00-18:15 料金:無料(要当日有効のTABF入場券

Talk Event「Nordic Art Book Store キュレーターズトーク」

https://tokyoartbookfair.com/events/7127/

 

マルメ・アーティスツ・ブック・バイエニアルも登壇します。ぜひご参加ください。